岡研究室
「糖鎖」の生合成を明らかにする!
「糖鎖」とは単糖がグリコシド結合した物質の総称です。地球上のすべての生物が「糖鎖」を作っています。しかし、「糖鎖」がどのように作られているのかについてはわかっていないことが多いです。私たちは「糖鎖」が作られる仕組みを明らかにすることで基礎科学と人類の発展に貢献しようと研究を進めています。

病原性糸状菌や酵母の「糖鎖」をつくる酵素を見つける!
病原性の糸状菌や酵母による感染症は人類を苦しめ続けています。抗がん剤の投与や、骨髄移植・臓器移植に伴う免疫抑制剤の投与、エイズ患者の増加などの要因によって深在性真菌症は増加しています。しかし、人類がこれまでに開発できた抗真菌薬は、作用機序を基に分類すれば20種類にも満たないと言われています。しかも、現在治療に使われている抗真菌薬は数種類しかありません。さらに、深在性真菌症の治療薬であるアゾール系抗真菌薬に対する耐性株が出現しており、世界的な脅威となっています。一方、糸状菌には農作物に病気を引き起こす種も知られています。稲いもち病や灰色カビ病などが毎年多くの被害を農作物に与えています。以上のことから、人類の未来のために新しい仕組みで効く抗真菌薬の開発が急務となっています。
病原性の糸状菌や酵母は、厚い細胞壁に覆われています。細胞壁は細胞を物理的に守るための構造体ですので、もし、細胞壁がうまく作れなくなれば菌は死んでしまいます。このことは、細胞壁の生合成を邪魔する薬剤は抗真菌薬や農薬となり得るということを意味します。
細胞壁は、「糖鎖」で出来ています。しかし、その生合成は複雑で良くわかっていないことが多いです。私たちは、細胞壁をつくる成分のひとつであるガラクトマンナンという「糖鎖」がどのように作られているのかを明らかにしようとしています。さらに、ガラクトマンナンの生合成を阻害することができる薬剤がヒトや作物に対する副作用のない抗真菌剤として、医薬や農薬に利用することができると考えています。自分たちで見つけたガラクトマンナン生合成酵素の立体構造を明らかにして、コンピューターシミュレーションによって阻害剤を見つける研究も進めています。

真菌のかたちが変わるメカニズムを解明する!
真菌はカビやキノコの仲間の総称です。真菌の細胞形態には酵母型、菌糸型の2種類が存在します。二形性真菌と呼ばれる一部の真菌は環境条件依存的に酵母型と菌糸型の細胞形態を使い分けることが可能です。我々は、深在性皮膚真菌症の1種スポロトリコーシスの原因菌であるSporothrix schenckiiを研究材料として二形性の謎の解明に取り組んでいます。スポロトリコーシスの重症化にはこの二形性が深く関わっていることが指摘されているため、S. schenckiiの形態変化に重要な遺伝子を発見することで、スポロトリコーシスの重症化を防ぐ方法を開発することができるかもしれません。また、得られた知見によって、麹菌や酵母などの発酵産業に使用されている真菌の細胞形態を自在にコントロールする技術にも応用できるのではないかと考えています。
